国土交通省にて住生活基本計画(全国計画)の見直しについて審議を行うため、社会資本整備審議会住宅宅地分科会が2016年1月22日に開催されました。
http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s202_jutakutakuchi01.html
釈迦に説法かと思いますが、この住生活基本法というのは、5年ごとに見直される、日本の住宅政策の方向性をきめる最重要な審議会。
前回見直されたのが5年前の2011年ですので、今年が見直しの年となっています。
前回の2011年の見直しでは、省エネ省CO2関係が劇的に強化され、例えば以下のような具体的な政策イメージが掲載されていました。
- 新築住宅の省エネ基準への適合義務化や誘導水準の導入、既存住宅の省エネリフォームに対する支援等を行う。
- 住宅の省エネルギー性能等の「見える化」の促進、低炭素社会に向けた住まいと住まい方に関する啓発・広報等を行う。
- 住宅及び住宅市街地の総合的な環境性能を評価する仕組みの普及や住宅のライフサイクルを通じたCO2排出量の低減、再生建材の利用の促進や住宅の建設・解体等により生じる廃棄物の削減及び適正処理を図る。
- 森林吸収源対策として、間伐材を含む地域材を活用した住宅生産技術の開発及び普及の促進等により、住宅の新築及びリフォームの際の地域材利用を促進する。
この5年間の間に具体的に法整備がなされたものばかりですね。
この住生活基本法を押さえておけば、今後の住宅政策の流れにしっかりと乗っていくことが出来ますので、良く読み込むことをお勧めします。
今回注目の目標
省エネ関係以外は多くの方がコメントされていますので、私は省エネ関係だけほじくってみたいと思います。
早速ですが、省エネ関係では興味深い政策が2つあります。
■一つ目
目標4 住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築
(1)「住宅購入でゴール」のいわゆる「住宅すごろく」を超えて、購入した住宅の維持管理やリ フォームの適切な実施により、住宅の価値が低下せず、良質で魅力的な既存住宅として市場 で評価され、流通することにより、資産として次の世代に承継されていく新たな流れ(新た な住宅循環システム)を創出
(2)既存住宅を良質で魅力的なものにするためのリフォーム投資の拡大と「資産として価値の ある住宅」を活用した住み替え需要の喚起により、人口減少時代の住宅市場の新たな牽引力 を創出
(成果指標)
既存住宅流通の市場規模 4 兆円(平成25)→8 兆円(平成37)
■2つ目
目標5 建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新
(1)約900 万戸ある耐震性を充たさない住宅の建替え、省エネ性を充たさない住宅やバリアフ リー化されていない住宅等のリフォームなどにより、安全で質の高い住宅ストックに更新
(2)耐震化リフォームによる耐震性の向上、長期優良住宅化リフォームによる耐久性等の向 上、省エネリフォームによる省エネ性の向上と適切な維持管理の促進
(3)ヒートショック防止等の健康増進・魅力あるデザイン等の投資意欲が刺激され、あるいは 効果が実感できるようなリフォームの促進
(成果指標)
リフォームの市場規模 7 兆円(平成25)→12 兆円(平成37)
省エネ基準を充たす住宅ストックの割合 6%(平成25)→20%(平成37)
2つの政策に共通するのが「断熱リフォーム」
一つ目の、「住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築」により、リフォーム市場を倍増させるとされており、資産価値のある住宅へのリフォーム支援策は相当に期待できますね。
因みに、現状で国の考える、資産価値のある住宅とは、「耐震性」と「耐久性」、そして「断熱性」を指します。
また、今回の性能評価の変更の目玉は省エネ性能の追加とインスペクションによる価値査定であることからも、リフォーム関係では「省エネ」と「インスペクション+躯体維持管理」がメインになると考えられます。
2つ目の、「建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新」により、安全で質の高い住宅ストックへの更新とはどのようなものかが示されています。
耐震性の不足した住宅はリフォームではなく、建て替え。そして耐震はあるが省エネが足りない、高齢者配慮が足りない住宅はリフォームさせようとしています。
そして、注目すべきは「ヒートショック防止」「健康増進」というまさに断熱性能の強化を求めてきている点です。
省エネ基準を満たす住宅ストックの割合を現状の「6%」から10年間で「20%」まで増加させるという、断熱リフォームへの言及が初めて登場しました。
新築中心の政策から既築への目標の拡大は、省エネ関係では初めてのことであり、革新的なスタンスの変更となります。
という事で、もう少し具体的に掘り下げてみたいと思います。
省エネ基準を満たす住宅ストックの割合「20%」の意味
さて、2025年に省エネ基準を満たす住宅20%の内訳を考えてみたいと思います。
野村総研の最新の発表では、2025年までに新築される予定の戸数が934万戸。
2025年のストック数は、直近5年間の解体戸数の年25万戸を維持したとして、10年間で250万戸減で、6063+936-250=6749万戸。
6749*0.2=1350万戸。
次に新築の936万戸のうちの何割が省エネ基準達成しているかを概案。
2020〜2025の422万戸は100%(義務だから)、2014〜2019の514万戸の60%達成と仮定して、422+308=730万戸。
既築では約6%とのことなので、6063*6%=364万戸。
合わせると2025年の省エネストックは730+364=1094万戸。
1350-1094=256万戸、既築の省エネリフォームは約256万戸と考えられます。
つまり、年25万戸ペースの断熱リフォームを想定した「住生活基本法」ということなのでしょうか。
戸当たり100万円(内窓+高効率給湯)だと、年2500億。
戸当たり200万円(内窓+天井・床断熱リフォーム+高効率給湯)だと、年5000億。
こんなところを想定している感じではないかと思いますので、新たな「住生活基本法」が決まった後は、リフォーム市場には待ちに待った断熱リフォーム市場が誕生することになりますね。
(まあ、リフォーム市場を5兆円増加させたいんだったら、戸当たり400万円(内窓+外壁・天井・床断熱リフォーム+高効率給湯)だと、年1兆円。このぐらいを期待したいんですけどね。
というか、このぐらいやらないと省エネ基準の達成は出来ませんので。
という事で、省エネ住宅的には、新築から全ストックを対象とした既築断熱リフォーム市場へと変換されようとする、楽しみな10年となりそうです。