エネルギーパスに新機能が追加されました。
その名も「エアコンの効率分析」。
新機能について、解説させていただきます。
私の知る限り、エアコンの効率分析を行える機能を持つ燃費計算ツールは、現時点ではエネルギーパスだけだと思いますので、非常に使えるツールと考えております。(というのも私が実務でエアコンの容量選定用に使っていたエネルギーパスの裏プログラムなので。)
釈迦に説法ではありますが、まずはエアコンのうんちくから。
エアコンは日本では最も売れている白物家電
ご存じのとおり、エアコンは大変効率の高い暖冷房機器であり、
今や1世帯当たり約3台、まさに日本では最も売れている白物家電です。
エアコンの最大の売りは一台で「暖房と冷房」ができること、そして「省エネ性能」が極めて高いこと。
ヒートポンプ方式で、
1の電力 + 6の大気熱 = 7の暖房熱エネルギー
というように電気エネルギーを何倍にも増幅して暖冷房熱を効率的に生み出すことができます。
まるで魔法のような超便利家電につき、毎年なんと800~900万台も売れています。
エアコンの課題、それは実効率が不明な点
最強の白物家電のエアコンにも、省エネルギーの観点では一つだけ大きな課題があります。
それは、ヒートポンプは外気の大気熱を集めて利用する性質上、効率が外気温に大きく左右されることです。
一般的にエネルギー効率を表す数値として使用されている数値として「COP」があります。
COPとは、暖房は7度、冷房は35度といった温度条件で負荷率100%運転した場合の1点の性能のため、季節に応じたエアコンの運転状況は加味されていません。
そこで現在エアコンのパンフレットに掲載されている「APF」(通年エネルギー消費効率)は、このエアコンの弱点ともいえる効率の変動を考慮して期間平均を算出されたものとなっています。
しかしながら、このAPFがメーカーの数値競争に陥ってしまっており、実使用環境と大きくかい離してしまっており、まったく参考にならないのが現状です。(期間APF=7とかありえませんよね・・・)
断熱や気密では0コンマ単位で細かく追及するのに・・・
APF=7はさすがに出ないとはいえ、APF=3~5は出るかなーというのが実務者の実感ではないかと思います。
そのため、APFよりはCOPの方が実態に近いため、実務者の皆様は設計時には、カタログの定格COPに0.6~0.7の掛け目でざっくり考えて設備検討されているのをよく耳にします。
しかしながら、断熱や気密では0コンマ単位で細かく追及されているのに、最終的なエネルギー消費量をつかさどるエアコンの効率はざっくり3とか4として計算するというのは、あまりにも大雑把すぎないかなーと常日頃から疑問に思っておりました。
APF(COP)は定格出力容量が大きいほど効率が悪い?
エアコンは大きな容量のものほど性能が悪いというのは実務者ならばもはや常識といえます。
以下は省エネカタログ2015年冬のに掲載されている最新の各メーカーの、エアコン出力容量別平均APFと平均COPグラフです。
ご覧になっていただければ一目瞭然ですが、出力容量が大きなエアコンほどAPFでもCOPでも低下していきます。
では、なぜ大きな出力容量のエアコンの方が効率が悪いのか?
その原因は出力が大きくなってもエアコンの室内機のサイズが変わらないため、より高い噴出温度が必要となるからです。
エアコンは一般的に強運転でも10m3/min前後の風量ですので、20℃の部屋で8kWの熱量を送ろうとすると、噴出し温度は約43℃以上必要になります。(2kWでよければ26℃あれば済みますので17℃も高い温度を生み出さないといけないわけですね。)
エアコンの心臓部であるヒートポンプは逆カルノーサイクルを用いているため、大気熱と暖房噴出温度の温度差が大きくなるほどに効率が低下します。(この辺りはそのうち気が向いたら書きますね。)
つまり、エアコンの容量はできるだけ小さくして、噴出し温度を下げたほうがヒートポンプの効率は高くなります。
結論としては、暖冷房におけるエアコンの熱効率を最大化するためには、運転方式を考慮しながら、できる限り定格容量の小さなエアコンを使うことが求められます。
実際のCOPは外気温と負荷率で決まる。
容量の小さなエアコンのほうがCOPが高いというのは、あくまでも温度湿度が一定の定点観測の場合であり、実際にエアコンの消費電力に大きく影響するのは外気温(湿度)と負荷率です。
下記は2500W出力のエアコンの負荷率(X横軸)とCOP補正掛け目(Y縦軸)のグラフです。
ご覧のとおり定格出力の0.8あたりがMAXの効率を示しており、2500W×0.8=2000W の時に最高のCOPとなります。
単純化して考えると、Q値2.7のワンルームがあったとして、外気温7度の時56㎡(34畳)の部屋の暖房を行うと最高のCOPが出ることになります。
因みに、定格暖房出力2500Wのエアコンの畳数表示は6畳ですので、5.6倍の安全率(オーバースペック)となります。
また、低燃費住宅ではQ値が0.8~1前後となる為、192㎡(116畳)で、19.3倍の安全率(超オーバースペック)となります。
エアコンの畳数表示は無断熱住宅設定だった
エアコンに表示されている畳数表示は無断熱の住宅の間欠暖房のつけた瞬間を想定しているため、ぶっちゃけ現代の住宅には超過剰設備となっています。(18畳のリビングに6.7kWの暖房出力のエアコンを導入した場合、負荷率は10%以下が大半。)
東芝HPより
ちょっとかい離がありすぎるので、エアコンJIS規格書をのぞいてみましょう。
なんと木造住宅の想定設定は、洋室南向きで265W/m2の暖房負荷、190W/m2の冷房負荷を想定しています。
つまり、265W×30m2(18畳)=7950W(暖房)、190W×30m2(18畳)=5700W(冷房)なので、冷房を基準として5600Wの冷房出力のエアコンが推奨されています。
ところで、暖房265W/m2ということは、
Q値に変換すると「Q値=約20」ですね。
木造無断熱の住宅に対する推奨ですから、でかすぎるわけですね・・・。
誤解のないように補足説明すると、日本の住宅の94%は断熱が不足しており、およそ4割近くは無断熱です。
最も多い無断熱住宅向けに推奨するのは消費者保護の観点から当たり前といえます。
むしろ実態を知らずに、断熱性の能高い住宅に無断熱用の畳数設定を用いてしまうのであれば、建築実務者の不勉強さが問題と思います。
結論!
エアコンの容量選定は、断熱、気密と間取りを考慮しながら、最適な容量選定を設計者が行う必要がある!
ということになります。
では、次回は本問題を解決するための、エネルギーパスの新機能 「エアコンの効率分析」 について解説します。
(本当は一発で書こうと思ったのですが、前フリが長過ぎて力尽きました・・・)
お楽しみに!