ドイツの建築研究所であるエコセンターNRWの研究員で株式会社日本エネルギー機関
(私、中谷が代表)の取締役である永井宏治氏にドイツの省エネ改修の現状と問題点について解説いただきます。
大手新聞社がKfW銀行(ドイツ復興金融公庫)の発表した、「リフォーム政策の経済性」という調査報告書を誤って解釈して記載し、それがドイツ公共放送でも同様に伝えられてことにより建築業界が激怒し、「ジャーナリズムの責任と影響力について熟慮したうえで執筆すべし。新聞、雑誌が読まれなくなるのは当然。」と痛烈に批判したのは記憶に新しい。こういった問題は度々発生している。
window.png原則的に高性能窓への交換の経済性は低くなっているが、これは単価が高いのと、光熱費削減の割合が小さいことが原因となる。経済性の視点から言うと、年月を経て必要性がでてから交換するほうがいいと言えるが、省エネリフォームは全体でコーディネートしてこそ意味がある。したがってアドバイスする側としては「躯体全体に断熱をして、窓だけは現状のままで」とは言ってはならないという困難なテーマとされる。建築物理学的に見て、これまで内壁、床、天井、開口部全体から熱が出入りしていたものを、開口部だけに集中させるというリスクは、快適性が失われる。また結露をそこに集中させるといった問題から避けるべきであるというのが背景にある。これは全体のリフォームできない所有者はするなということではなく、そういったリスクについての情報を伝える必要があるということである。
新築と省エネリフォームに共通するのは、躯体、設備、再エネという対策の順番だろう。現状からすると、ドイツ国内の設備メーカのロビー活動が強いことと、古くなった設備を効率の良いものに交換する対策が、例外を除いて非常に高い経済性をもっていることにより、設備から入るという消費者が少なくないことは間違いない。設備だけで留めておくのならば問題にはならない。残念ながら、省エネアドバイスで依頼主から頻繁に聞くのが、「ボイラーは2年前に換えたので次は断熱でもと考えている」というものだ。簡単に表現すると、スリムになって綺麗になりたい人間が、先に格好のいい服を買ってからダイエットし、いい服が大きすぎるというのと同じである。つまり、100のエネルギーを必要としていた家に合わせて設備を交換し、躯体の対策をすると30しか必要がなくなったというものだ。規模の大きな設備で少しずつ温熱供給すると効率は悪い。おまけに設備自体も高額である。
これも全体で知っているアドバイザーでなく、とりあえず設備業者に聞いてみたところ、「効率の高い設備がいい」という回答をもらったことが原因であるが、それも当然の結果だ。
躯体と設備への対策の後は再エネでのエネルギー供給になるが、その3点セットでは補えないのが、使用者、すなわち住人の住まい方である。省エネ自動車でも急発進、急停止を繰り返すような運転の仕方では燃費が悪くなる。これは住宅でも共通している。省エネリフォーム後の住宅は、これまでの住まい方と同じでは通用しないのだ。設備の設定から換気の仕方まで全てが異なってくる。それを間違うと省エネにならないだけでなく、建物や設備を傷めることにもなりかねない。
省エネリフォームは新築よりも複雑である。これはすでに建物と設備が存在し、各々の状態が異なる、対策をするしないの選択ができるためにかえって難しい。また、集合住宅になると、住人との折り合いも必要となる。所有者一人を納得させるだけでも多様な情報に精通していなければならないというのに、家主が住人を説得するためにはさらに材料が必要となる。一つ一つのリフォーム案件だけで見ると正しい情報でポジティブな結果をだすかどうかということのみに焦点があたるが、リフォーム推進政策全体からみれば、間違った情報が原因で少しでも悪い噂が広まれば、それを塗り替えるまでには相当な時間と労力が必要となる。ドイツ連邦政府は省エネリフォームの補助政策に力をいれているが、正しい情報の普及もさらに強化が必要と考えられる。これは日本でもこれから類似した課題が要求されることとなる。