◆成熟化した社会構造に適合したドイツの住宅産業
日本では新築中心の高度経済成長モデルを未だに続けており、新規建設投資額に対して新築は62%(約13.8兆円)リフォームはわずか8.4兆円、しかもこの大半が住宅ではなく、ビルなどの非住宅。こと住宅においては新築一辺倒であり、リフォームでの再投資が、ほとんどなされていないというのが如実に表れています。一方ドイツの場合、全体の約76%がリフォーム。新築投資というのはわずか24%(568億ユーロ)しありません。そして注目すべきは省エネリフォームが全体の26%(613億ユーロ)、日本円にすると約8兆円もあるということです。しかもこの省エネリフォームという市場は、ここ最近意図的に政府によって作り出されたものです。 どうしてこれだけの市場を作り出すことができたのか?それは「家の燃費」という概念がポイントとなっているのです。
◆省エネリフォームは光熱費の単年度建設投資
簡単に言うと、省エネリフォームというのは海外に流出していた20年分の光熱費を、ギュッと圧縮し、単年度の建設投資に変えるスキームといえます。例えば、日本の場合毎年20兆以上の化石燃料を海外から購入しています。このごく一部でも省エネリフォームに投資することができれば、例えばほんの1%2000億円を省エネ住宅に投資させることが出来れば、「1000億×20年=4兆円」の市場が作り出せます。この省エネリフォームへの投資を誘引していくという政策は、これ以上環境政策として、そして経済政策として優れたものはないと言われている大ヒット政策です。ですから、リーマンショック後にドイツ連邦政府が最初に打ち出した緊急経済対策は断熱リフォーム補助金の積み増しでした。また、住宅所有者にとっては、省エネ住宅というのは投資です。昨今のエネルギーコスト上昇の影響で、「家の燃費」を計算してみると、低金利で銀行に預けているよりも、省エネ住宅に投資した方が、圧倒的に利回りが高いのです。省エネ住宅政策とは、地域で眠らせていた個人預金を地域経済活性化に活用するすぐれたシステムなのです。
例えばドイツ経済研究所の箱研究によると1ユーロの助成金を出すと民間等で約7.1億ユーロの投資が誘引されるつまり、使った金額の8倍の経済効果を持っていると発表しています。そして助成金を100万ユーロに対して以下の効果が確認されています。
A. GDP500-1,180万ユーロ(90%が地域の中小企業)
B. 雇用100-217人(同じく中小企業)
C. 社会福祉削減効果100-220万ユーロ
(失業手当や生活保護など)
D. 税収増加88-200万ユーロ(消費税や所得税など)
国や地方自治体は税収等が投下した補助額の数倍の税収や支出削減効果がある。つまり、この省エネリフォームへの補助金は原資が無尽蔵となるので、省エネリフォーム需要がある限り、補助金は出し続けることができます。だからこそ、ドイツ連邦政府は省エネリフォーム市場を現在の毎年40万世帯から、120万世帯まで拡大し、2050年までにすべての住宅を高断熱化すると発表しています。つまり、海外に流出していた化石燃料を原資として、省エネリフォーム市場を拡大させ、現行でも約8兆円位の市場を倍以上まで拡大し、向こう30年間以上やり続けるということを明言していることになります。
日本でも同じようなことが十分実現可能です。日本の住宅というのはほとんど断熱化されていません。次世代省エネ基準という、国の推奨基準の住宅はストック数の5%に満たないとされています。つまり、5,000万戸以上の断熱リフォーム需要が存在しています。ドイツと同じ政策を日本で制度化することができれば、瞬時に200兆円もの建設需要が生まれ、向こう40年間にわたり年間10兆円以上の省エネリフォーム市場を作り続けることも可能です。その際にまず既存の住宅で最初にやるべきは、夏も冬も最も熱の出入りの多い窓。つまり、日本の既存住宅では、まず窓に内窓をつけていく、または高性能ガラスに交換していくことから始めるのが効果的です。また、これから新築するのであれば、最低でも樹脂サッシレベルは選びたいところです。でないとある一定の時期が来たらリフォームを強制される可能性は拭い去れませんので。