2015年7月29日
【断熱性能の優れた家は体感温度もアップする】
今年4月から、新築戸建て住宅も「長野県建築物環境エネルギー性能検討制度」の義務対象になった。この機会に、住まいの『燃費性能』と『健康性能』との関わりなどについて、シリーズで説明してきたが、連載も終盤に差し掛かってきた。
さて、冬に部屋を暖房して、室温は十分な温度なのにまだ寒い、逆に夏に冷房して室温は十分下がっているのになぜかまだ暑い、そんな経験をしたことはないだろうか?
体感の温度は、室温だけでなく、気流と湿度も大きく影響することは比較的知られているが、実はそれ以上に、壁や天井面や床の表面温度の影響が大きいのだ。
近畿大学建築学部長の岩前篤教授によると、人間の体は、空気温度だけでなく、床・壁・天井面からの輻射熱も感じ取るのだという。そして、体感温度は、概ね室温と表面温度の平均値で示されるのだそうだ。例えば、冬に室内の温度計が20℃を示していても、断熱性が高く家、壁の表面温度が18℃であれば体感温度は19℃だが、断熱性が低く壁の表面温度が10・8℃の家は体感温度がなんと15・4℃になるのだという。つまり同じ室温でも体感温度は壁面や天井面の表面温度次第で大きな差が出てしまうのだ。
これは、放射による熱の移動によるものだそうだ。直接触らなくても、温度の異なるものの間で熱は移動する。例えば洞窟は壁面の表面温度が低く、体からの放射によって熱が奪われ、ひんやり涼しく感じる。逆に表面温度が高い壁面からは、放射熱が体に伝えられ熱く感じる。断熱性能が低い家の場合は、冷暖房をしてもどうしても壁面温度が外気温に近づいてしまう。そのため、室温よりも夏は暑く、冬は寒く感じてしまう。つまり、冬であれば、必要以上に室温を上げないと寒く感じるのだ。逆に言えば、断熱性能が高い家は、例えば暖房時は断熱性能が低い家よりも低い室温設定でも十分に暖かいということだ。
さらに、エアコンのことを「風がいや」とか「乾燥する」という理由で嫌う人も多い。しかし高断熱・高気密住宅の普及促進を図る一般社団法人パッシブハウス・ジャパン理事の松尾和也氏によれば、これも住宅の断熱性能不足のせいなのだという。断熱性能が低いと壁面等の表面温度が下がる。さらには室内の上下で温度差が生じ、足元が寒くなる。そのため必要以上に暖房しなければならず、風量も多くなってしまうのだ。逆に言えば、断熱・気密性能が十分ならば、エアコンは決して不快な冷暖房器具ではないのだ。また、エアコンは数ある空調機器のなかで、省エネ性能がもっとも優れており、さらに年々性能が向上しているのだという。これは少ない投入エネルギーで、空気中などから熱をかき集めて、大きな熱エネルギーとして利用するヒートポンプという技術を使っているためだ。ものを燃やして熱を得る石油ストーブなどとは根本的に原理が異なる。断熱・気密性能の優れた家ならば、エアコンでも穏やかな風量で適切な室温ですむので、とても快適で、かつエコに生活できるのだ。
次回は、断熱性能と健康との関係が明らかになりつつあることを国の動きを交えて説明したい。